

第7話:カフェで生まれたきっかけ
土曜日の午後。エイダンさんは、いつものカフェに来ていました。
このカフェは、アパートから歩いて10分ほどの場所にあります。大きな窓から光が入る、落ち着いた雰囲気のお店です。エイダンさんは、この場所が気に入って、週末によく来るようになりました。
今日も、窓側の席に座って、カフェラテを飲みながら、日本語の勉強をしています。テーブルの上には、日本語の教科書と、ノート、それからスマートフォンが置いてあります。
「『楽しみにしています』か…この表現、便利だな」
エイダンさんは、ノートに例文を書きながら、小さな声で繰り返し練習しました。
その時、店員さんが声をかけてきました。
「お客様、こちらのお席、よろしいですか」
振り向くと、店員さんの後ろに、30歳ぐらいの女性が立っていました。カフェは混んでいて、空いている席が少ないようです。
「あ、はい、どうぞ」
エイダンさんは、少しいすを引きながら答えました。
「ありがとうございます」
女性は笑顔で言って、隣の席に座りました。カバンから本を取り出して、読み始めました。
エイダンさんは、また日本語の勉強に戻りました。でも、あまり集中できません。隣の女性が読んでいる本の表紙が、少し気になりました。
それは、エイダンさんがアメリカで読んだことがある、有名な小説でした。
「その本、面白いですよね」
気づくと、エイダンさんは声をかけていました。
女性は驚いたように顔を上げました。
「え?あ、はい。お好きなんですか」
「はい。アメリカで読みました。日本語版もあるんですね」
「そうなんです。私、この作家が好きで」
女性は、嬉しそうに答えました。
「僕もです。特に、この作品の主人公の考え方が好きです」
「分かります!私も、主人公の『今を大切に生きる』という姿勢に共感して」
二人は、しばらく本の話をしました。自然に、楽しく、話が続きました。
「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私、マユと言います」
「僕はエイダンです。アメリカから来ました」
「エイダンさん、日本語、とてもお上手ですね」
「ありがとうございます。でも、まだまだです。今日も、ここで日本語を勉強していました」
エイダンさんは、テーブルの上の教科書を見せました。
「そうだったんですね。えらいですね、休日に勉強なんて」
「いえいえ。でも、日本語は難しくて、楽しいです」
マユさんは、笑いました。
「『難しくて、楽しい』っていう言い方、面白いですね。でも、分かります。新しいことを学ぶのは、大変だけど楽しいですよね」
二人は、それから日本語のこと、東京のこと、好きな本のことなど、いろいろな話をしました。
マユさんは、出版社で編集の仕事をしていて、本が大好きだということでした。週末は、よくこのカフェに来て、本を読んだり、仕事の資料を見たりするそうです。
「そうなんですか。僕も、最近、よくこのカフェに来るようになったんです」
「じゃあ、また会うかもしれませんね」
マユさんが言いました。
時計を見ると、もう5時を過ぎていました。気づいたら、1時間以上話していました。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」
マユさんが立ち上がりました。
「あの…もしよかったら、連絡先、交換しませんか。また、本の話とか、日本語のことで分からないことがあったら、教えてもらえると嬉しいです」
エイダンさんは、少し緊張しながら言いました。
「はい、ぜひ。私も、英語の勉強をしているので、よかったら教えてください」
マユさんは笑顔で答えました。
二人は、スマートフォンで連絡先を交換しました。
「じゃあ、また」
「はい。ありがとうございました」
マユさんは、カフェを出て行きました。
エイダンさんは、席に座ったまま、窓の外を見ました。秋の夕方の空は、オレンジ色で、きれいです。
スマートフォンを見ると、連絡先に「マユ」という名前が追加されていました。
「今日は、いい日だったな」
エイダンさんは、カフェラテの最後の一口を飲みながら、そう思いました。
本の話から始まった会話。同じ本が好きな人と、日本語で話すことができました。それが、とても嬉しかったです。
アパートに帰る道を歩きながら、エイダンさんは思いました。
「明日、メッセージを送ってみようかな」
秋の風が、少し冷たくなってきました。でも、エイダンさんの心は、温かい気持ちでいっぱいでした。
Hiragana Version
どようびのごご。エイダンさんは、いつものカフェにきていました。
このカフェは、アパートからあるいて10ぷんほどのばしょにあります。おおきなまどからひかりがはいる、おちついたふんいきのおみせです。エイダンさんは、このばしょがきにいって、しゅうまつによくくるようになりました。
きょうも、まどがわのせきにすわって、カフェラテをのみながら、にほんごのべんきょうをしています。テーブルのうえには、にほんごのきょうかしょと、ノート、それからスマートフォンがおいてあります。
「『たのしみにしています』か…このひょうげん、べんりだな」
エイダンさんは、ノートにれいぶんをかきながら、ちいさなこえでくりかえしれんしゅうしました。
そのとき、てんいんさんがこえをかけてきました。
「おきゃくさま、こちらのおせき、よろしいですか」
ふりむくと、てんいんさんのうしろに、30さいぐらいのじょせいがたっていました。カフェはこんでいて、あいているせきがすくないようです。
「あ、はい、どうぞ」
エイダンさんは、すこしいすをひきながらこたえました。
「ありがとうございます」
じょせいはえがおでいって、となりのせきにすわりました。カバンからほんをとりだして、よみはじめました。
エイダンさんは、またにほんごのべんきょうにもどりました。でも、あまりしゅうちゅうできません。となりのじょせいがよんでいるほんのひょうしが、すこしきになりました。
それは、エイダンさんがアメリカでよんだことがある、ゆうめいなしょうせつでした。
「そのほん、おもしろいですよね」
きづくと、エイダンさんはこえをかけていました。
じょせいはおどろいたようにかおをあげました。
「え?あ、はい。おすきなんですか」
「はい。アメリカでよみました。にほんごばんもあるんですね」
「そうなんです。わたし、このさっかがすきで」
じょせいは、うれしそうにこたえました。
「ぼくもです。とくに、このさくひんのしゅじんこうのかんがえかたがすきです」
「わかります!わたしも、しゅじんこうの『いまをたいせつにいきる』というしせいにきょうかんして」
ふたりは、しばらくほんのはなしをしました。しぜんに、たのしく、はなしがつづきました。
「あ、すみません。じこしょうかいがまだでしたね。わたし、マユといいます」
「ぼくはエイダンです。アメリカからきました」
「エイダンさん、にほんご、とてもおじょうずですね」
「ありがとうございます。でも、まだまだです。きょうも、ここでにほんごをべんきょうしていました」
エイダンさんは、テーブルのうえのきょうかしょをみせました。
「そうだったんですね。えらいですね、きゅうじつにべんきょうなんて」
「いえいえ。でも、にほんごはむずかしくて、たのしいです」
マユさんは、わらいました。
「『むずかしくて、たのしい』っていういいかた、おもしろいですね。でも、わかります。あたらしいことをまなぶのは、たいへんだけどたのしいですよね」
ふたりは、それからにほんごのこと、とうきょうのこと、すきなほんのことなど、いろいろなはなしをしました。
マユさんは、しゅっぱんしゃでへんしゅうのしごとをしていて、ほんがだいすきだということでした。しゅうまつは、よくこのカフェにきて、ほんをよんだり、しごとのしりょうをみたりするそうです。
「そうなんですか。ぼくも、さいきん、よくこのカフェにくるようになったんです」
「じゃあ、またあうかもしれませんね」
マユさんがいいました。
とけいをみると、もう5じをすぎていました。きづいたら、1じかんいじょうはなしていました。
「あ、もうこんなじかん。そろそろかえらなきゃ」
マユさんがたちあがりました。
「あの…もしよかったら、れんらくさき、こうかんしませんか。また、ほんのはなしとか、にほんごのことでわからないことがあったら、おしえてもらえるとうれしいです」
エイダンさんは、すこしきんちょうしながらいいました。
「はい、ぜひ。わたしも、えいごのべんきょうをしているので、よかったらおしえてください」
マユさんはえがおでこたえました。
ふたりは、スマートフォンでれんらくさきをこうかんしました。
「じゃあ、また」
「はい。ありがとうございました」
マユさんは、カフェをでていきました。
エイダンさんは、せきにすわったまま、まどのそとをみました。あきのゆうがたのそらは、オレンジいろで、きれいです。
スマートフォンをみると、れんらくさきに「マユ」というなまえがついかされていました。
「きょうは、いいひだったな」
エイダンさんは、カフェラテのさいごのひとくちをのみながら、そうおもいました。
ほんのはなしからはじまったかいわ。おなじほんがすきなひとと、にほんごではなすことができました。それが、とてもうれしかったです。
アパートにかえるみちをあるきながら、エイダンさんはおもいました。
「あした、メッセージをおくってみようかな」
あきのかぜが、すこしつめたくなってきました。でも、エイダンさんのこころは、あたたかいきもちでいっぱいでした。
English Translation
Saturday afternoon. Aidan was at his usual café.
This café is about a 10-minute walk from his apartment. It's a calm atmosphere shop where light comes in through large windows. Aidan liked this place and started coming here often on weekends.
Today too, he sits by the window, drinking a café latte while studying Japanese. On the table are his Japanese textbook, notebook, and smartphone.
"'Tanoshimi ni shite imasu'... this expression is useful."
Aidan practiced repeatedly in a small voice while writing example sentences in his notebook.
At that moment, a staff member called out to him.
"Excuse me, would this seat be okay?"
When he turned around, a woman in her thirties was standing behind the staff member. The café was crowded and there seemed to be few empty seats.
"Oh, yes, please go ahead."
Aidan answered while pulling his chair back a little.
"Thank you."
The woman said with a smile and sat in the seat next to him. She took out a book from her bag and began reading.
Aidan returned to studying Japanese. But he couldn't concentrate very well. He was a bit curious about the cover of the book the woman next to him was reading.
It was a famous novel that Aidan had read in America.
"That book is interesting, isn't it?"
Before he knew it, Aidan had called out to her.
The woman looked up as if surprised.
"Huh? Oh, yes. Do you like it?"
"Yes. I read it in America. There's a Japanese version too."
"That's right. I like this author."
The woman answered happily.
"Me too. Especially, I like the way the main character thinks in this work."
"I know what you mean! I also relate to the main character's attitude of 'living each day to the fullest.'"
The two talked about the book for a while. Naturally and enjoyably, the conversation continued.
"Oh, sorry. We haven't introduced ourselves yet. I'm Mayu."
"I'm Aidan. I came from America."
"Aidan-san, your Japanese is very good."
"Thank you. But I still have a long way to go. Today too, I was studying Japanese here."
Aidan showed her the textbook on the table.
"I see. That's admirable, studying on your day off."
"Not at all. But Japanese is difficult and fun."
Mayu laughed.
"The way you say 'difficult and fun' is interesting. But I understand.
Learning something new is hard but enjoyable, isn't it?"
The two then talked about various things such as the Japanese language, Tokyo, and books they like.
Mayu works as an editor at a publishing company and loves books very much. On weekends, she often comes to this café to read books or look at work materials.
"I see. I've also been coming to this café often recently."
"Then we might meet again."
Mayu said.
Looking at the clock, it was already past 5 o'clock. Before they realized it, they had been talking for over an hour.
"Oh, it's already this late. I should get going."
Mayu stood up.
"Um... if you'd like, would you like to exchange contact information? If I have questions about books or Japanese that I don't understand, I'd be happy if you could help me."
Aidan said while feeling a little nervous.
"Yes, definitely. I'm also studying English, so please teach me if you'd like."
Mayu answered with a smile.
The two exchanged contact information on their smartphones.
"Well then, see you."
"Yes. Thank you very much."
Mayu left the café.
Aidan remained seated and looked out the window. The autumn evening sky was orange and beautiful.
Looking at his smartphone, the name "Mayu" had been added to his contacts.
"Today was a good day."
Aidan thought so while drinking the last sip of his café latte.
A conversation that started from talking about books. He was able to talk in Japanese with someone who likes the same book. That made him very happy.
While walking back to his apartment, Aidan thought.
"Maybe I'll send her a message tomorrow."
The autumn wind was getting a bit cold. But Aidan's heart was full of warm feelings.

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